大江戸妖怪物語
美藤さんは扇子で口元を隠した。少し考えたあと、美藤さんは僕と雪華を交互に見た。
「・・・山姥は、完全に気づいておる。確実にお主らの命を狙っているだろう。・・・やはり、江戸に帰ったの方がよいのではあるまいか?」
「それはできないです!」
僕は力強く立ち上がった。
「確かに命を狙われてるかもしれませんが・・・、でも山姥を倒すって決めました、自分の身を犠牲にしても村人を守りたいんです」
その様子を美藤さんは頬杖しながら聞いていた。
「・・・ッ。まぁ、怖いですけど、山姥怖いですけど!」
僕は声を一弾と高くして叫んだ。
「でも、山姥は許さない!許せない!僕がこの手で絶対倒す・・・!」
「よッ!神門くん男前!!」
源一さんが僕の太鼓を持つ。
「・・・明後日、山に行くか?」
美藤さんが扇子をビシッと僕の方に向けた。
「山姥の住んでいる場所は大体把握している。明日はゆっくり休み、明後日山に行こう・・・。―――山姥との全面戦争だ」
「全面・・・戦争・・・」
その単語に僕は唾を飲み込んだ。しかし、山姥を倒す宣言をしてしまった以上、後には引けない。
「わかりました、行きます!ねえ、雪華!」
「そうだな。明日はゆっくりと休み、力を蓄えるか。・・・そこの侍女」
「は、はい!」
雪華は先ほど、毒入り料理を持ってきた侍女に目を向けた。侍女はビクッとして体を震わせた。
「すまなかったな。これは侘びだ。受け取れ」
「・・・こ、これは・・・?」
「蕨だ。うまいぞ」
「・・・雪華、それ、さっき山に生えてたやつじゃん・・・」
「あ、ありがとうございます!茹でて食べます!」
「無理に喜ばなくていいと思うけど・・・」
「私、蕨好きなんです!食べ物の中で一番好きなものが蕨なんです!」
「まじか?!まじなのか?!好物が蕨ってマジなのか?!」
侍女は背中にかかる黒髪を揺らしながら、蕨を受け取った。
「・・・全く騒がしい・・・」
美藤さんは肩をすくめた。
「まあ・・・。私たちも支援する。ぜひとも悪の根源、山姥を倒してな」
ニヤリとなまめしく微笑む美藤さんは扇子をばさっと開いた。
「山は恐ろしい・・・。まるで侵入者を拒むかのような・・・。しかし、期待しておるぞ。お主らには」
扇子で仰ぎつつ、高笑いをする美藤さん。その目には自信のようなものが見えた。