大江戸妖怪物語
麻子。年は源一の二つほど下だった。
肩にかかるかかからないかの長さの黒髪が、風で揺れる。
麻子はこの村の人間ではなかった。麻子は源一が暮らす集落の、山を二つほど越えた先にある、少し大きめの村の出である。
二人が出会った理由は源一が麻子のいた村に野菜を届けていた。その村で二人は運命的に出会い、恋に落ちたのである。麻子は半ば駆け落ちのような形でこの村にやってきて、同棲生活を送っていた。
「源一さん」
麻子が口角を上げてフッと微笑む。そして差し出された指は源一の唇の脇へ・・・。
「ご飯、ついちゃってますよ」
源一の唇の端についたご飯粒をそっと取った麻子。そのご飯粒を自らの口へと運んだ。
「えへへ、ちょっとサービスです」
顔を赤らめながらモジモジする麻子。源一にとってどれほど可愛かったものか。
「ま、麻子ッ・・・!あ、ありがとな」
照れ隠し。目線をはずす源一。その光景はほほえましいものだった。
そして仕事が終わり、家へ戻る。すると源一の家の郵便受けに入っていた一通の手紙。
「またか・・・」
源一はそれを持ち帰り、封を切って読んだ。
『麻子へ
体はどうですか?会えなくて寂しいです。あなたが村を出て一年半ほどでしょうか。そっちの暮らしはどうですか?寂れた村で苦労はしていませんか?親の心、子知らずとはこの事。あんな男はすぐに捨てて、こっちの村へ戻ってらっしゃい。あなたのお見合い相手も決めてあります。そんな村にいるよりも、こっちの栄えある村に戻り、家族で過ごしましょう。その村で暮らすよりも、私たちと一緒に暮らしたほうが幸せになるのですから。
両親より』
その手紙を読み終え、源一はため息をついた。
「あんな男・・・か」
その手紙に気づいた麻子は、慌てて源一に謝る。
「ご、ごめんなさい。私のお父さんとお母さんが・・・。・・・・・・一日に二、三通ペースって・・・本当にごめんなさい」