大江戸妖怪物語

そう。このような手紙は毎日、しかも多数送られてくるのである。

「子の心、親知らずって感じですよね・・・」

泣きそうな顔で麻子は手紙を見つめた。黒い文字が冷たく光沢を帯び、明かりでキラキラをと少し輝く。

「・・・大丈夫だから」

源一は麻子をギュッと抱きしめた。宥めるように背中を摩る。麻子は涙を堪えていた。
源一にはこうすることしかできない。彼女の親を叱り付ける権限も、ましてや駆け落ち状態なのだから、彼女の親にも会いづらい。彼女の親には一度だけ会ったことがある。

確か麻子と付き合い始めて間もないころ、野菜を売りにいったときのことであった。
麻子と一緒に両親が買い物に来たのである。

「あ、源一さん」

源一を見つけ、子犬のように近づいてくる麻子。その様子を訝しげに見る両親。彼女の母親が口を開いた。

「・・・あなた、この村の人じゃないわね」

「あ、はい。山を二つ越えた所の村から・・・」

「まぁ!そんな田舎者なの!じゃあ、これまでもまともな教育を受けてこなかったのね」

「はい?」

その言葉にカチンと来た源一。それも当たり前だ。田舎者=まともな教育をうけていないと勝手に決め付けられたのだ。これは源一だけではなく、源一が大好きな村人全員を馬鹿にされたのである。

「ちなみに麻子は有名な寺院で勉強に励み、しかも優秀な成績で卒業。住む世界が違うのではなくて?」

「ちょっと、お母さん!」

麻子が母親を止める。しかし、今度口を開いたのは父親のほうだった。

「君は学業に勤しんだ事はあるか?」

「・・・ないです」

正直、なかった。しかし、漢字の読み書きや数学などそういった学業は近所の大人に教えてもらったりしていた。

「・・・やはり田舎者は田舎者だ。あきれた」

父親がため息をついた。

「・・・お父さんっ!」

麻子は父親を睨む。

「こんな低レベルな人間と関わっていてもろくな事がないぞ。どうだ、お父さんがこの前紹介した人とお見合いするといい」

源一は拳を振るわせた。もう、耐えられない。怒りが拳に伝わり、今にも殴りかかってしまいそうだった。

「いいかね、君。今はもう文治政治の時代なんだ。馬鹿力だけでどうにもなる世の中じゃないんだよ。すべては偏差値、学力。勉強ができないこと、それは恥だ」
< 186 / 328 >

この作品をシェア

pagetop