大江戸妖怪物語
麻子の死から二日後。葬式中のことである。
お経を唱えている時であった。
「麻子!麻子おおおお!!!」
葬式上の扉を乱暴に開けて入ってきたのは、なんと麻子の両親だった。
「ああ、なんてことなの!なんでこんなことに・・・」
棺に凭れ掛かり泣く母親、慌てて周りが制止に入る。しかし母親は制止に入った人々を引きはがす。
すると両親は源一の姿に気づいたのか、罵詈雑言を浴びせた。
「この人殺し!!あんたさえいなければ娘は死ななかった!!!!どう責任取ってくれんのよ!」
「これだから知能の低い村の人間と付き合いたくない・・・。こんな奴らのせいで娘の命がなくなるなど、あってはならん!」
父親は村人たちを軽蔑のまなざしで見た。
もちろん、村人たちも黙っちゃいない。
「んだと?!言ってくれるな!!」
「誰が知能が低いですって?!たとえ私たちが馬鹿だとしても、あんたたちみたいにはなりたくないわ!!本当の大馬鹿者はそっちでしょ!!!」
こうして麻子の両親と村人の壮絶な言い争いが始まったのである。
麻子の両親は村人の迫力に臆したのか、覚えてなさいと捨て台詞を吐き、去って行った。
「ごめんな、麻子・・・」
源一は泣いた。棺に縋り、大声で泣いた。
「お前が死んじまったってのに、争いを続けちまって・・・本当にごめんな・・・」
人殺し。ひとごろし。ヒトゴロシ。
その単語が彼の頭の中を巡る。
「人殺し・・・か」
源一は泣き、そして笑う。顔を抑え、流れ出る涙をグッと隠した。
「・・・悔しすぎて反吐が出そうだ。ああ、気味が悪い」
自分の中に湧き上がってくる、怒りと悔やみ。どちらにせよ、あるのは絶望だった。はたして自分は被害者なのか加害者なのか。それすらもわからず迷う。
麻子は白い欠片となり、土に帰って行った。
いずれ、この盛り上がった土はいずれ平らになっていくだろう。
この土が平らになった時、俺以外の皆は彼女を忘れないでいてくれるのか。
そしてその夜のことである。
源一が家でボォーッとしている時だった。
「・・・いちさん」
何か声が聞こえた。
「・・・いちさん、源一さん」
振り向く。そこには、麻子の姿があった。
「ま、麻子?」
麻子はゆっくりと頷いた。
「麻子、麻子!!!」
源一は麻子を抱きしめようとした。しかし、麻子が手を前にやる。『来てはいけない』の合図だった。
「そうだ、麻子。麻子が死んだなんて嘘だ。嘘に決まってる。だって、麻子はここに、ここにいる。そっか、死んでなかったんだな。麻子・・・」
「・・・あなたも存じているように、私は死にました」
その言葉が源一の心を刺した。