大江戸妖怪物語
「私に触れてはいけません。絶対に、触れてはいけません」
麻子は源一から距離を取る。その距離はとても近く、そして遠い。
「山姥に、殺されました。・・・山姥に」
消えそうな声で麻子は言う。
「・・・ただ、あなたに伝えたかった。愛しています、と」
泣きそうな顔で微笑む麻子。それが源一の心を刺した。
「でも私が死んでしまった以上、あなたは私という存在に縛られてはいけないと思うのです」
「麻子、それはどういうことだ・・・?」
「新しい恋をしてください」
悲しげに口角を上げる麻子。その言葉に唖然とする源一。
「何言って・・・ッ」
「このままだと、あなたは永遠に悩んでしまいます。私という存在が邪魔で」
「邪魔だなんて思っていない・・・!」
「・・・わかっています、それは。ただ、私の存在があるせいで、あなたの人生を壊したくないのです。私は死にました。もう、あなたと結ばれることはありません。でも、あなたはまだ、他の誰かを愛し、幸せになる権利があります」
「幸せになる権利っていっても、俺には・・・麻子しか・・・いねえんだ・・・」
「・・・確かに、今いっても受け入れられませんよね。・・・では、いつか。そのときまで」
「麻子?!いつかその時って・・・?」
麻子は返答せずにフッと消えてしまった。
「麻子!」
その瞬間、源一は目を覚ました。
朝日が目に刺激を与えている。
「麻子・・・」
葬式に両親の乱入、どうやらその疲れが原因でとんでもない悪夢を見てしまった。悪夢だ。これを悪夢と呼ぶ以外に何があるのだろうか。
もう二度と会うことのできない人間を夢で見て、恋い慕い、そして目覚め絶望する。
とんだ悪鬼に取りつかれたようだ。
「・・・麻子、・・・・・・俺は」
顔を手で覆い、笑う。
「・・・・・・・・愛してた」
源一は玄関に立てかけてあった鍬を肩に担ぐ。
「・・・じゃあ、いってきます!」
源一は無人の家に向かって叫んだのだった・・・・・・・。
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