大江戸妖怪物語
「侍女仲間が殺されてるってのに、頑張るなー・・・」
健気な様子の彼女に胸を打たれた僕は、いっそう山姥に対する憎しみが増えた。
「あ、美藤様・・・」
亜紗子さんが美藤さんの家に入ろうとしたとき、美藤さんが出てきた。
「いったい何の騒ぎじゃ」
苛立った様子の美藤さんは僕のもとにツカツカと歩いてきた。美藤さんの履く浅沓がカランカランと心地いい音を立てる。
「朝からなんの騒ぎじゃ」
「じ、実は、侍女の恵津子が・・・山姥に殺されました・・・」
おどおどしながら亜紗子さんは言った。
「・・・おそらく、こちらの動向がばれたのだろう」
腕組みをしながら、美藤さんは語る。
そして数秒考えたのち、美藤さんは再度口を開いた。
「・・・・・・やはり、お主らにはこの村を出て行ってほしい」
冷たい声で美藤さんは告げた。僕は何か言おうとしたが、美藤さんの目の冷たさに僕は言葉が出なかった。
「・・・山姥が動き出した。お主らがこの村にいる以上、山姥は村人を殺しにやってくる。・・・違うか?」
「そ、それは・・・」
「・・・お主らはどうやら・・・我らの村に災厄をもたらしてくれたようだな」
憤った様子の美藤さん、僕は何も言い返すことはできなかった。
「やっぱり、この殺しはあの人たちのせいってこと?」
「うわー・・・。あの人たちがいる以上、人が連日死に続けるってことか・・・」
「厄病神じゃないのよ・・・、なにが救世主よ」
村人の中から非難の声が上がり始める。
「・・・山姥を殺します。それでいいでしょう?」
その非難の声に割って入ってきたのは雪華だった。
「・・・何を戯言を。現に人が死んでいるではないか」
「確かに・・・これは私たちの失態です。山姥を殺さなくてはならないのに・・・逆に犠牲を出してしまった・・・。・・・私たちを信じてはくださいませんか。・・・でしたら今日にでも山姥討伐に行きましょう」
「・・・ひとつ、約束をせぬか」
美藤さんは僕らのことを見る。
「もし、この村でもう一人の犠牲者が出たらこの村から去る・・・。どうじゃ?」
「・・・いいでしょう。私たちがこの村を守ります。・・・行くわよ、神門。戦いの準備をして」
「え、もう?」
「当たり前だ。人が死んでるんだぞ。急がなくては」
僕は雪華に腕を引かれながら、源一さんの家へと戻った。
「はぁ・・・。やっぱり僕たちのせいで死人が出ちゃうなんて・・・、責任重いな・・・」
「だからこそ山姥退治に行くんだろうが。死人が出た以上、抜け抜けとしてられるか愚か者」
「ううっ・・・。そうだけど、なんか・・・」
「なんだ?」
「村全体を敵に回しちゃったというか・・・」
そう、明らかに変わった周りの態度。たとえるなら、無害な普通の水に一気に塩酸をぶちまけたくらいに変わった。彼らにとって今や、救世主が来たということは村人にとっては民の死を意味する。
「まるで洗脳だな」
雪華は片足の上に肘を置き、溜息をついた。
「本来なら自分たちを助けてくれるであろう救世主。しかし救世主が来るということは山姥の逆鱗を買い、そして自分たちを殺しに来るということになる。殺すのは山姥だが、彼らにとっては『救世主がこなければ山姥によって人が死なずに済んだ』と思うだろうな。彼らはやがて、山姥ではなく救世主を恐れ、そして救世主自体を『死の象徴』として認識するようになるだろう。そして最終的には山姥ではなく、救世主を恐怖に感じるようになる。そんなことをしても、何にもならない。人は進まねばならない」
雪華は右手で頭を抱えた。
「だからこそ、殺さねば山姥を。すぐに」
雪華は氷刀と持つ。僕も背中に太刀を背負い、戸を開けた。もちろん村人の嫌な視線を感じながら。
「お、おい!待てよ!」
声をかけてきたのは源一さんだった。
「・・・村中が敵でも、俺はお前らを信じているからな。同行したいのもやまやまだが・・・、俺とお前らでは力の差が歴然だ。俺が行ったら足手まといになるだけだ」
「源一さん・・・」
「力になることができなくて、ほんと申し訳ねえ!その代わりといっちゃあなんだが、お結びを作った!途中腹が減ったら、これでなんとかしてくれ!」
「あ、ありがとう源一さん!」
「おうよ!これしかできねえとは情けねえが・・・俺は待ってるからな」