大江戸妖怪物語
「うわぁ・・・鬱蒼としてるな・・・」
山を少し進んだだけで、明らかに雰囲気が変わった。
ジャングルのような木々が僕らの行く手を阻む。
すると近くで何かが動いた音がした。
「いやああああああああああああああああ!!!!」
素っ頓狂な叫び声をあげたのは、女性の雪華ではなく、成人男性の僕だった。
「・・・大声を上げるな、やかましい。ただのムカデだ」
「うぎゃあああああああ!!ムカデぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
「・・・こんなやかましい声に永遠耐えなくてはならぬのか・・・?!」
イラついた様子で雪華は言った。
「ムカデに噛まれると痛いんだってば!噛まれると目の前に稲妻が走ったようにバチッとなって、それでそれで・・・」
「嫌なことは思い出さないでよろしい」
雪華は僕のことを適当に受け流すと山深く進んでいく。
「しかし、獣道だな。進むのも大変だ」
道とおぼしき所には左右から木が倒れていたり、枝が落下して来たりと、道と呼ぶには程遠いものとなっていた。
僕は、いったいここから出れるのだろうか、このような樹海から・・・と余計なことを考えつつ、頬に止まった蚊をペチッと叩いた。
一度蚊を逃してしまったが、目の前を浮遊する蚊に狙いを定めて両手で叩いた。
手に血が付き、僕は頬をかきむしった。
「一応地図を見る限りあっているようだが・・・」
雪華は美藤さんからもらった地図を見ながら難しい顔をした。
「ここから少しいった所に、二又の分かれ道があるらしい。そこを左に進むのだな」
「うぶッ!」
僕の顔面に立派な蜘蛛の巣が被さった。顔にへばりつく銀色の糸を取る。
そして少し歩くと、確かに道が二つに分かれていた。・・・いや、道とは呼べないが。
雪華は迷わず左に進む。僕もそのあとを追った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
その後、互いに無言になってしまった。
「ねえ・・・・・」
「なんだ?」
「ほんとにこの道・・・ゼェゼェ・・・合ってるの・・・?」
と、いうのも、先ほどよりもはるかに道が険しくなってきたからである。もう道というか茂みだし、急斜面だし、なにより大量の蛇が僕を怖がらせた。
「ねえ、やっぱり戻ろうよ」
「何を言っている、引き返したいのならお前だけ戻れ」
「ううぅ・・・」
渋々雪華の後をついていく僕。
その時だった。
ドサッ・・・
「ん?」
僕の背後で何かが落ちる音がした。