大江戸妖怪物語
「はは。麻子に背中を押されるとはな」
源一さんは照れ笑いを浮かべながら、村人のもとへ戻って行った。
「でも、どうするか。新しい村長」
そう、美藤さんがいなくなり、村長は誰になるのか。
「やっぱり源一じゃないか?」
「お、おれ?!」
「そうだな、源一しかいない。この村を守れるのは」
源一さんは悩んだ顔をしたが、すぐ、笑顔に戻った。
「じゃあ、この村が完全に落ち着くまでっていう期間限定でいいか?」
源一さんは自分の夢を語りだした。
「山姥の件でひと段落したら、俺、江戸で店をやるって決めてんだ。だから、この村がちゃんと元通りになったら江戸に移住する」
村人たちから歓喜の声が漏れる。そして拍手も起こった。
「すごいわね、源一が村長って」
札埜は源一に微笑んだ。源一さんは首の後ろを掻きながら、笑っていた。
その日の夜。
「ほらほら、神門くん、飲んで飲んで!!」
「あ、あの、僕お酒は・・・」
山姥退治の祝いで宴が開かれていた。
「神門お兄ちゃん!ねえねえ、あの、ごうかだいぐれんって技、教えて!」
「私も教えてほしい~!」
僕の周りに子供たちがドッと押し寄せた。
「えぇ~・・・?あの技?」
「「「「うん!」」」」
「そうだな・・・・・・・。多分、君たちには今はできないだろうけど、大人になったらできるようになるかもしれないよ。僕も子供のころはできなかったんだ。僕は小さいころはいつも一人ぼっちで泣いてばかりいたから」
そう、僕も子供のころは、こんな妖力を手に入れるなんて思いもしなかった。
「へぇ~・・・。僕も神門お兄ちゃんみたいな感じになるのか!そしたら、雪華お姉ちゃんみたいに、可愛い彼女もできるんでしょ?」
「ちょ・・・お前、何言って・・・」
多分、僕の顔は耳まで真っ赤だ。顔も火照ってるし・・・。雪華はわざと聞こえないふりをしているのか、泡盛を飲んでいた。
「あー!神門お兄ちゃん照れてるー!!」
「てッ・・・照れてないし!!」
きゃはははと僕の周りで笑いが起きる。
「くらえ、ごうかだいぐれん!!」
「うぎゃあああ」
どうやら、子供たちにとって、僕は受けがいいらしく、ヒーローごっこをやっていた。
「いやあ、和むなあ」
僕は笑いながらその様子を見つめていた。
そして札埜はパクパクと野菜炒めを食べていた。
「札埜!豚肉とか食べないの?」
「アタシ、ベジタリアンなのよ」
「ちょッ・・・!山姥がベジタリアンって!!!」
あははははと宴の席に笑いが満ちた。
「ほらほら、神門くん!この村でできた蒟蒻だよ!食べて食べて!!」
「モグモグ・・・う、うまい!!!」
「でしょ~!おばちゃんの自信作だよ!!」
「ふむ、うまいな」
雪華は味わいながらそれを食べた。