大江戸妖怪物語
「・・・すまなかった」
村人たちが最初に口にしたのは、僕たちへの謝罪だった。
「二人のことをひどい風に言っちまった・・・。助けてくれたのに・・・」
「大丈夫よ。そんなに気にしてないから」
「うん。結局山姥を倒せたしね」
村人たちは札埜にも謝った。
「札埜・・・さん?えっと・・・、何から何まで謝りたい」
「そんなに頭下げないでよ」
札埜は微笑みながら言った。
「言い訳がましいが・・・美藤の口車に乗って君のことを恨んでいた。すまない」
「いいって。アタシ、気にしてないから」
札埜は鉈を手でクルクル回転させ、鞘にしまった。
「その・・・、アンタ、また山に戻るのかい?」
「ええ、そのつもりよ」
「その・・・よかったら、この村で一緒に住まねえか?」
「え?」
源一さんは札埜の前に行き、喋る。
「俺たちはもう山姥を恐れない。そしてもっとアンタを知りたいんだ」
札埜は源一さんの顔を見つめた。少し悩み、札埜は口を開いた。
「邪魔じゃないなら、そうさせてもらいたいものかしら」
「やったぁ!!!」
村人たちから歓喜の声が起こる。
「でも源一さん。札埜はどこに住むの?場所あるかな?」
「じゃあ、俺の家に住めばいい。・・・だって、これでお前さんたち二人は江戸に帰っちまうんだろ?・・・ちょっと寂しくてね」
源一さんは眉を顰めた。
「源一・・・というのね。じゃあ、これからよろしく」
札埜は源一さんの顔を覗き込んだ。その瞬間、源一さんの顔が真っ赤に火照った。
「あ、いや、・・・うむ。よろしくな・・・」
村人たちからヒューヒューとからかわれる。源一さんは耳まで真っ赤だ。
僕と雪華は源一さんを札埜から距離を取らせて、話す。
「ちょ・・・もしかして、札埜に惚れたの?!」
「ま、まぁ・・・ちょっと可愛いなって・・・」
「まったく、梅雨時なのに頭の中は春真っ盛りといった所ね」
「・・・でも、俺には麻子がいるから・・・」
「それには心配及ばないわ」
源一さんに話しかけてきたのは亜紗子だった。
「姉さんだって、源一さんの新たな恋路を応援しているに違いないわ、きっと」
「亜紗子さん・・・?姉さんって」
亜紗子さんはフッと笑った。
「源一さんの婚約者の、麻子の妹なの、私」
「えぇッ?!麻子さんの?!?!それにしては年が離れているようだけど・・・」
「そうね。私は麻子が死んだショックで作られた存在だから・・・。それに私の名前、亜紗子の亜紗は麻とも読むでしょ。読み方を変えると麻子になるわ」
「うわ、気づかなかった。じゃあ、あの夜に源一さんの家の裏にいたのは・・・」
「姉の墓参りよ。姉は素晴らしい人って聞いていたから。そして、水仙が好きだったから」
亜紗子さんは微笑んだ。
その時、源一さんの前に光の粒がふわふわとやっていて、眩い発光を始めた。僕らは目を細めた。光が収まってくると、そこには一人の女性がいた。
「新たな恋の相手を見つけたようですね、源一さん」
優しい声の持ち主。源一さんはツーッと涙を流した。
「ま、麻子・・・・・・」
僕は彼女の顔を見た、とても美しい。笑った顔が、亜紗子さんに似ている気がする。
「姉さん・・・・・・」
亜紗子さんも泣きそうな表情だった。
「前に進んでください、私はこれを望んでいました。二十年経ってしまいましたが、あなたの時間を進めてください」
麻子は源一に向かって微笑んだ。
「そして亜紗子さん。大好きな私の妹。私の代わりに生きてくださいね」
麻子は僕と雪華に言った。
「神門さんと、雪華さんですよね。源一さんの時間を動かしてくれてありがとうございます。そして、この村を山姥という脅威から救ってくださり、感謝します」
もう一度麻子は源一を見つめた。
「もう一度いいます。私はあなたの恋を応援してます。私は誰よりもあなたの味方ですから」
麻子はそういうと、どんどん薄くなっていった。
「ああ・・・・・・・、言いたいことが言えてよかった。私はもう、あちらの世界に行けそうです。みなさんさようなら」
麻子はスウーっと消えて行った。
「じゃあな、ありがとう。麻子」
源一さんは、熱い涙を流した。