大江戸妖怪物語
脱衣所で、大きいタオルで頭を包み込み、前後に激しく動かした。
タオルの下、グシャグシャになった濡れた前髪の隙間から、虚ろな僕の目が空を見ていた。
腹減ったなぁー、夕飯はなんなのかなとどうでもいいことを考えつつ、着替えの民宿の浴衣に袖を通す。
白地に紺の模様といった、民宿の浴衣っぽい浴衣は非常に風通しがよく、火照りを抑えるのには十分だった。
僕が顔の水滴を拭いながら暖簾を出ると廊下に何人かが立っていた。その中心にいるのは・・・雪華?
?「だーかーら!一緒に俺らと飲もうぜぇ!」
?「いいじゃんいいじゃん、行こうよ~」
げッ・・・。僕の顔は引き攣った。
僕らの部屋の隣に泊まっている怪しい三人組・・・。
雀陽「にょほほほほ!!強情な御嬢さんだこと!!私は将来有望ですよ!!関係をもって、損はないと思いますがねぇ!!!にょーほほほほ!!!」
雀陽は右手にネイルのようなものを施していた。しかも、キラリと光るラインストーンもついている。まじまじと見れば見るほど、オネエ・・・いや、金持ちのイメージが強くなる。
雪華「だから何度も言っている。私は行かない」
?「そんなこと言わずに~!!」
子分二人が雪華の手を掴む。
僕の胸がざわついた。
気付は僕は雪華のもとへと駆けていた。
神門「おい」
僕は野郎三人衆に後ろから声をかけた。
?「あぁん?」
子分が顔を歪めさせて振り向く。
指をポキポキ鳴らしながら、威嚇しているようだった。
神門「その手を離せ」
?「なんだってんだ?あぁ?文句あんのか?!」
?「潰してやろうかだぜぇ!」
「いいから離せって」
僕は子分二人の前に立った。それをみていた雀陽が小指を口にくわえた。
雀陽「ぐぬぬ!助吉!芳吉!好きにしちゃいなさい!!!にょほーー!!!」
雀陽は爪を噛みながら子分二人に命令した。子分は頷くと僕の正面に立った。
芳吉「ふん!!」
そういうと助吉と芳吉は左右から掴みかかってきた。そして助吉の右手と芳吉の右手が、僕の両手と噛みあう。
神門「・・・触んな・・・。イライラしてんだよッ・・・」
僕は自分でも驚くほど低い声だった。まるで自分が自分でないぐらいに低い声だった。屈強な体つきの子分たちは力任せで僕を潰そうとしてくる。
僕は両手に力を入れた。すると、子分二人の顔がだんだん苦痛に歪んできていた。
助吉「いッ!いててててててててて!!!!!!!!」
助吉が叫び声を上げた、芳吉もそれに続き叫ぶ。雀陽は何が起こったかわからないのか、オロオロしていた。
神門「イライラしてんの、僕」
僕は雀陽を思いきり睨みつけた。雀陽はヒィッと素っ頓狂な声を上げると、子分に命令して走って去って行った。