靴磨き
本文
「僕ね……、昔、キャバクラの店長、やってたんですよ」

 両足を揃え、私は椅子に座って待っている。

 目の前で、まだ三十代に満たないぐらいの、短髪で痩せっぽちな男が、先ほどまで履いていた私の靴を、抱きかかえるように、片方ずつ磨いている。


 靴磨きというと、履いたまま、というイメージがあるかもしれないが、足を乗せる台を持たない職人も、世の中にはいる。

 私は好んで、そういうところに通う。


 一番大きな違いは、靴ひもを取り外すか否かだ。

 履いたまま磨くのでは、どんなに腕の良い職人でも、その部分が不十分になってしまう。

 私は、それが気に入らないのだ。

 勿論、紐のついていない靴を好む人間には、無用の戯言である。
< 1 / 5 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop