ビッグマンズ
男の中の男社会
西新宿。この辺りは都内でも有数の「一流」と呼ばれるホテルが立ち並ぶエリアだ。この話の舞台となる「ホテルZ」も、そのうちの一つ。このホテルの南館メインキッチンは個室の宴会、ルームサービスのオーダー、隣接するセクションであるブッフェレストランの仕込み等実に仕事量の多い苛酷な職場である。同時に四箇所もやれなんて全く無茶な話だ。今日も一日無事に終わってくれるといいが、ここで何事もなく終わったことなんて一度もない。 朝7時。「おはようございいます。」どんな職場でも同じだが、しっかり挨拶するのは基本。しかしこれが、できない奴が意外に多いから驚く。私はそう言いながらキッチンに入っていき二人の先輩に挨拶する。この日の早番の佐々川と泊まり明けの草野。ホテルの調理場の泊まり番ほど大変な仕事はこの世にないだろう。「おはよう。」眠気と疲れを見せずに男らしく明るい笑顔で返す草野。その横で、ドーナツをつまみながらふらふらしてる佐々川。まったくもう、このひとは。やる時はやるのだが気分的にも仕事的にも浮き沈みの激しい男だ。十年前の大事故の後遺症を引きずり、味覚も嗅覚も戻らないままコックを続けている。それでフルーツのカット等の、あまり味覚等を必要としない朝食担当の早番を専門としている。 ブッフェレストラン「シェフ・パンチ」は毎朝7時に朝食がオープンする。宿泊客を中心に朝食の時間帯だけで平均約四百人程入る。それと同時進行でルームサービスのオーダー、メンバーズバーのオーダー、そしてランチや宴会の仕込みをしなくてはならないのだから忙しいのは言うまでもない。