ビッグマンズ

　１０時半。この時間になるといつも、早番の私以外の二人が休憩に行ってしまい、私が一人調理場に取り残されることになる。
「フランソワ！お食事に行ってくるわ！」阿部が、満面の笑みで私に手を振り、佐々川と連れ立って出て行く。




　普通、コックは休憩時間が１時間あったとしても、１時間まるまる休憩する者はまずいないが、ここの連中はＯＬも顔負けなくらいに休憩時間を満喫する。
　私が一人で留守番している１時間の間、厄介なルームサービスのオーダーが入った時は、本館のルームサービス担当であるメインキッチンに電話して、代わりにやってもらったりしていた。



もちろんチーフは奥のシェフルームにいるが、気軽に呼べるはずがないし、この頃の私は、ほとんど何もできなかった。