空耳此方-ソラミミコナタ-
「お、驚かすなよ……」
高橋は服のホコリをはたいて立ち上がった。
炯斗はその不満の籠った視線をよそに切り口をしげしげと見つめる。
粗くギザギザとしていて、刃物で切ったような跡。近くには剪定ハサミ。
どこか見覚えのあるようなこのゴム。
どこで見たんだ……?
見たことがあるのは確実だと思うのだが、様々な情報で絡んだ糸に邪魔される。
伸びて絡み付いて、先の記憶へは進ませてくれない。
「ふぬっ!!」
イライラして、おもいっきりゴムを引っ張って見るが、変わらない。
それどころか、多少古いせいで大して伸びてくれもしなかった。
「わーからん!」
「痛いっ!」
「ごめん、ムチみたいになっちゃった」
地面に叩きつけたゴムの先端が高橋へ。
何だか彼に八つ当たっているみたいで炯斗はすぐさま謝った。
そろそろ慣れてきたのか、高橋は苦笑いを浮かべるだけ。
「さて、もう日も落ちるし……そろそろ終わりだよ」
「えー」
「先輩にああ言ったとはいえ、そんなに長く拘束する訳にはいかないんだ」
先生のように言うと、炯斗は口を尖らせながらも身を引いた。