空耳此方-ソラミミコナタ-
潮騒はいつ消え失せたのだろう。
月はいつ雲の中へと逃げたのだろう。
壁にもたれて向き合っていたはずの二人。
透が玲子の横の壁に手をついて、彼女の唇を塞いでいる。
「んんー!」
玲子は透の胸板をドンと叩く。
だが、人一倍丈夫な透はビクともしない。
聞きたくない。
「ちょっ──」
文句を言おうと開いた隙間をさらに透が食いつく。
「…っ、ん……はぁ……っ」
熱っぽい吐息が漏れる。
息が吸い難いせいか、玲子の顔はのぼせたように赤くなっていた。
見たくない。
透は一度離れて、玲子の頬を手で包みこんで、じっと見つめた。
「何なのよ……透」
「玲子…」
透がどんな顔をしているのか。
それは克己の位置からは読み取ることができない。
いや、そんなことは関係ない。
そもそもこんなの見たくもないのに。
なのにどうして、こんなに目が離せない――?
透は今度はゆっくりと顔を近づけて、玲子の口を啄む。
透の体重がかかる。倒れまいとした玲子の腕が地で二人を支える。
彼女の手が透から離れた途端、彼は次の行動に移った。