空耳此方-ソラミミコナタ-

潮騒はいつ消え失せたのだろう。
月はいつ雲の中へと逃げたのだろう。

壁にもたれて向き合っていたはずの二人。

透が玲子の横の壁に手をついて、彼女の唇を塞いでいる。

「んんー!」

玲子は透の胸板をドンと叩く。
だが、人一倍丈夫な透はビクともしない。

聞きたくない。

「ちょっ──」

文句を言おうと開いた隙間をさらに透が食いつく。


「…っ、ん……はぁ……っ」

熱っぽい吐息が漏れる。
息が吸い難いせいか、玲子の顔はのぼせたように赤くなっていた。

見たくない。

透は一度離れて、玲子の頬を手で包みこんで、じっと見つめた。

「何なのよ……透」

「玲子…」

透がどんな顔をしているのか。
それは克己の位置からは読み取ることができない。

いや、そんなことは関係ない。
そもそもこんなの見たくもないのに。


なのにどうして、こんなに目が離せない――?


透は今度はゆっくりと顔を近づけて、玲子の口を啄む。
透の体重がかかる。倒れまいとした玲子の腕が地で二人を支える。

彼女の手が透から離れた途端、彼は次の行動に移った。



< 263 / 374 >

この作品をシェア

pagetop