空耳此方-ソラミミコナタ-


「触るなって言っただろ?」

「…言われてないと思うけど」

「嘘!?」

「触った後で言ったね。それより、そこどうしたの?」

ああ…と言って手を退ける。
克己は息を呑んだ。
その手の下の頬骨から、大きな青タンの痣が現れた。

「大丈夫!?」

「平気だ平気」

「全く、傷だらけよね」

洞窟の入り口に凭れた玲子が冷たい視線を寄越す。

腕を組んで克己に大股で近づくと、ギュッと克己の耳をつまみ上げた。

「もう! どうしてすぐに帰って来なかったの! 心配したのよ!」

「痛い痛い! 玲子姉ちゃん痛い!」

ああ、やっぱり怒られた。

何故だか安心したその時、ポタッと水が克己の顔に落ちた。

「?」

怪訝に思って見上げると、玲子が泣いている。

「玲子姉ちゃん…?」

「バカ。……これだけ時間を掛けたからには…いいの見つけてきたんでしょうね?」

克己はあわてて見つけてきたライターと木の枝を持ち上げ、小さく笑って見せた。


< 266 / 374 >

この作品をシェア

pagetop