片戀
焦がれるだけで、そしたらおわり
.
 空を見上げて移りゆく雲を眺めていたら、突如強い風が吹いて、ばさ、と、膝の上に置いていたものたちが風に攫われた。

咄嗟に手を伸ばしたけれど時すでに遅く、風に攫われたものたちは、地面すれすれのところを転がりながら、私から離れていった。

どうしたものか。やはりこういう時には車椅子は不便だ。けれどそんなことを今更後悔している場合でもないので、風が止んだうちに、地面に落ちたものを拾おうとする。

あと少しのところで、再び風に攫われる。あーあ。もう諦めようか、と思ったところで少し離れたところから声がした。

これ、貴方のですよね、と、差し出されたものは先ほど風に攫われたものたち。ありがとうございます、と言って顔を上げると、人のよさそうな顔をしたひとが、私をみていた。
丁度公園の前を通った時に風に攫われるのが見えたので、と云う目の前の人は、絵を描かれてたんですか?と、話を振った。週に何回か散歩をしながら暇つぶしに絵を描いている、そういった内容のことを伝えると、そうなんですか、とその人は微笑んだ。この感じを、随分前に何処かで感じたことがある。思い出すことは出来ないけれど、それじゃ、と、立ち去ろうとしたその人を咄嗟に引き止めたのは、そんな理由からだった。

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