本と私と魔法使い
―…

嫌だ。…待って。
おいてかないで、まだあなたに返してないものいっぱいあるの…。



「これが、おまえと一緒に眠るヤツか…」


庇うように立っている千亜の後ろの存在を私は知っていた。


「笹木…?」

千亜の後ろでぼんやりと立っている肌のひび割れた彼は“化ヶ物”になっていた。

「そうだよ」

どうして…?



「お、いー感じに面白くなってるねー」


張り詰めた空気を破るように底抜けに明るい声が響いた。

夕暮れ色の髪の男。
あの頭痛の酷かった日にあった男。


「多季」

和泉がその男の名を読んだ。千亜も一層険しく顔を歪めた。
楽しそうに意地悪そうに笑う多季。


「何が望みなのよ!?…健くんを、“化ヶ物”にして」

「あー、…なのに半分君が肩代わりしちゃったから、正確じゃなくなちゃったよ、どうしてくれるの?」



肩代わり?

「そ、咲が初めて女の“化ヶ物”に会った日ねぇ」



楽しそうにけらけら笑って説明し始めた。
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