本と私と魔法使い
「ひどいねぇ」

サリサの部屋を出ると多季は口許に笑いを浮かべすぐ近くの廊下に立っていた。
「何がですの?」

「ちゃらんぽらんって…ひどくない?」

「聞いてましたの…あく…っ」


悪趣味。
その言葉を遮るように、口をあの時と同じ手ではなく口で塞がれる。

「…っ」

やっとの思いで多季をひきはがす。
ぱんっと勢いよくアイリスの綺麗な手が多季の頬をはる。


「…ふ、ざけないでくださいっ、あなたは…こんな事、誰とでもするくせにっ…」

「君だけだよ」


この辺りには本当に咲いてないから困ったよ、
多季は笑いながら、差し出した。


「アイリス…」


紫と白のアイリスの花。
とても昔にいた思い出せないくらい遠い故郷の花。


追い出されて、もう戻ることは出来ない、私の故郷の象徴―…

「あんなの、ただの冗談ですのに…」


無理難題を押し付ければ、簡単に執着もなくすと思ったのに。
その程度の男だと、自分で気持ちを押しとどめて、

「気に入った?」
「馬鹿ですの?」

「本当ひどいよねー」

「あなたなら、他にいくらでも女なんているでしょう?」

「だから、前も言ったでしょ?君は僕の好みそのものだって、銀の髪に金色の目、つんつんしてて猫みたい、白い体も新雪みたいに柔らかそう、ついでにいえば声、いつも僕をなじるその声がどんな風に鳴くのか、気になる」



とてつもなく変態気質な返答が返ってきた。
しんみりした気持ちが台無し、さっきのちょっとした感動を返してほしい。


「答えは決まった?」

意地悪そうに笑う顔。
本当は、初めてあったときから、自分の好みにハマっていただなんて、いえるわけがない。

「返品不可です、わかりました?」


もちろん、
多季はアイリスをわらって抱き締める。

返すつもりなんてない、

その囁きは甘く耳許に響いた。


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