本と私と魔法使い
「おい、大丈夫か?」

座り込んで惚けていた私の腕を男はぐいっと引っ張る。
立たせてくれようとしたんだけど、私は余計にバランスを崩した。


「ありが…とうございます」


取り敢えずお礼を言った私に、彼は冷たく言い放つ。


「重い、邪魔、退け」

さっきよろけてバランスを崩した私は、彼を押し倒していた。

…てか、重いって。
私はその言葉に引っかかりながら、慌てて退いた。


彼は、面倒くさそうに髪をかきあげた。動作一つ一つが画になる人だなあ、と思う。


「やっぱり、カッコいい…」


身長は、180ぎりぎりあるかないかだけど、長身の部類に入るだろう。
茶色に近い柔らかそうな髪は、染めたわけじゃない自然な輝きを放っている。
つり目がちの瞳は、野性の獣みたいな、やさしくて、強い、気高い印象を与える。
こんなに綺麗な男の人を初めて見た。

見ていたら、食べられそう…。
じん、と何かが響いた気がした。
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