短編集
心の中でツンデレかよ。と思いながらなんとなく頭を撫でてやる。普通だったら、嫌がって逃げたり、手で俺の手をはじいたりするものだが、
「うー」
と唸るだけで、嫌がるようなそぶりは見せない。これは、最近知ったことなんだけどな。彩は、頭を撫でられることが、嫌いじゃないらしい。だからといって、ずっと撫でてるわけも行かず、適度に撫でた後、頭から手を放す。彩の髪は、手入れが行き届いていて、さわり心地がよく、手を放した今でも、その感覚が手に残っている。
そこで彩は、ふと何かを思い出したように顔をあげ、爛々と輝く瞳で見つめながら、
「あ、そうだ。誠さ、今日合格発表終わったら暇?」
などと拍子抜た質問をしてきた。そのとき、今日初めて名前を呼ばれたことに気づき、顔や言葉、行動には出していなかったが、彼女も俺ほどではないだろうけど、緊張していたのかもしれない、と思った。さっきのやり取りや、頭を撫でると行った行為が緊張を解せた気がする。俺も彼女も。
「ん?まぁ暇っちゃ暇だな。」
「ならさ、映画見にいこ!映画!」
「お、いいねー落ちてたときは景気付けになるし、受かってたら合格祝いってことで」
「あはははっ。大丈夫だって!」