憂鬱なる王子に愛を捧ぐ
なぜだろう。
まるで強調するように、尚は言う。結衣ちゃんは、戸惑いに瞳を揺らしながら、おずおずとあたし達の前に歩み出た。
―妹……、尚に、妹がいたんだ。
いたらおかしいというわけじゃない。けれど、長くもないけれど決して短い時間を一緒に過ごした訳じゃないのに、尚はそんなこと一言も言わなかった。
「結衣です。よろしくね」
「あ、あたしは黒崎真知」
「俺は佐伯千秋、よろしくな!結衣ちゃん」
にかっと笑う千秋に、結衣ちゃんが纏う空気から幾分か緊張が拭われたような気がした。
「ヒサ、お前妹いたんだな!全然知らなかった」
「……そうだっけ。ごめん、言う機会なかったから」
苦笑する尚の好青年モードに、千秋はぎょっとした顔をする。そんな千秋を見て見ぬ振りで、尚がそっと膝を折り、結衣ちゃんと視線を重ねた。
「危ないだろ?結衣。もう時間も遅いんだし、こんな場所にひとりでいたら」
戒める尚の声音に、結衣ちゃんの肩がびくりと跳ねる。