大人的恋愛事情
 
思わず振り払った手が意外に簡単に離れたので、なんとなく振り返ると立ち上がった状態で、ドアに横向きのまま寄りかかる男が深い溜息を吐く。



え?



その姿はとても辛そうに見えて。



「なに?」



不信に思う私がそう聞くと、横向きから背中をドアにつけて、ズルズルとその場にまたしゃがみ込んだ。



「頭痛てえ……」



低く掠れた声は、そういうことだったのかと思いながら、さすがに見捨てるようなことも出来ずに、しゃがみ込む圭の額に手を当てると、驚くほど熱く熱を持っていた。



顔を上げる気力もないのか俯いたままの圭に、溜息を吐きながら聞く。



「ずっとここに?」



「ん?」
< 312 / 630 >

この作品をシェア

pagetop