crocus

すごく澄んだ瞳はどこか優しい…が、近づいてくるなにかの気配。若葉の手元にはいつ掴んだのだろう、薄っすらと焼き目がついたツヤツヤの卵焼きが。

無意識のうちに開いてしまっていた口にそれを入れられ、一噛みすればふんわりとした卵と砂糖の甘さが鼻腔まで広がった。

初めて食べた味とやはり同じで、もきゅもきゅと安心と共に噛み締めていれば、若葉が今度は手を握りしめてくれた。すべすべとした手の平から卵焼きを食べたときと同様にほわりとする、横隔膜辺り。

ああ…そういうことか。うん、そうだな。

若葉の一連の行動は、励まそうと安心させようとしてくれているんだろうなと思うと、目の前の真剣な表情をしている女の子がとてもかわいく思えてきた。

受け止めて信じてくれた上に、温かさを教えてくれた。この耳が塞がっても聞こえてくる自分の鼓動は少し早くて、嬉しさに不覚にも目頭がじんと熱をもっていく。

出来れば知られたくない恥ずかしい部分を、否定したりバカにしたり嫌悪を抱かれたりされないか不安でどれほど恐いか知っているのだろうか。

そして理解を示してくれた今、俺の心はツヤツヤふわふわの卵焼きと一緒だ。

自分がすげぇ無防備でヘラヘラ情けない顔をしてるのが分かる。でも…それが嫌じゃない。

卵焼きをゴクリと飲み込み、もう一つ欲しいなぁ…なんて横目に皿を見れば散乱してしまっている昼飯に気づいた。

せっかく作ってくれたのに、若葉の優しさまで一緒に蔑ろにしてしまったようで申し訳なさで息が詰まった。

拾い始めれば案外汚れもついていない無事なおにぎりや、ウインナーもあった。

自然な流れで口に運んでしまえば、うん、なんともない。ただうまかった。

けれども若葉に止められてしまい、調子に乗って再度約束を取り付ければ若葉は今までで一番の笑顔を俺だけに快く向けてくれた。

うわぁ…直視出来ねぇって…っていくつだよ、俺。

気恥ずかしさに首をもたげていると、なんだか若葉の様子がおかしくて。

俺の携帯を少々強引に奪った若葉はポチポチと文章を作り出した。慣れない携帯だからか、元々機械に弱いのか動く指にすごくぎこちなさを感じた。

そんなとこもいいよ、なんて…頭が沸いてきている証拠だ。


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