crocus
若葉の上で、傘に弾かれた雨粒がボンボンと音をたてる。

「すいません、ありがとうございます。私は大丈夫です!あのお洋服…濡れてしまいます、から…」

私を気にせずきちんと傘をさしてください、という意図を含んだ言葉を遠慮がちに呟いた。

ほとんど若葉の方に傘は寄っていて、男の人の肩は既に元の服の色より濃くなってしまっていたから。

「いや、あなた様に比べれば…ねぇ?」

差し出してくれた傘のおかげでやっと見上げることが出来た男の人の表情は、眉が下がっていて緩やかに上がる口角からは「ふふっ」と息が漏れた。まさに呆れていらっしゃる。

「あ、のさ。俺、家がこの近くなんだけど…あー…えと、だから…さ」

"よかったらコーヒー飲んでいきませんか!!"

あまりにも遠慮がちに言葉を選ぶように、でも最後は勢いよく言葉を発した男の人に若葉は目を離せなかった。

体を前のめりにして、自分の目を真っ直ぐ見ながら話してくれる真摯さに、若葉は嬉しくなって自然と頬が緩む。

名前も知らない人なのに、迷わず「はい」と頷いた自分の単純さも笑い飛ばした。

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