crocus

駐車場に停めた車から降りて歩いてみると、期待に満ち溢れているせいか足取りが軽かった。

「運転お疲れ様でした。ありがとう、誠吾くん」

「いーえー!でも、結構早く着いたねー。ここは10時から摘み放題の営業を始めるから、それまではゆっくり厳選していけるよー」

「あの……素人の私が取ってもいいのかな?」

ただでさえ初心者なのに、摘んだいちごがお客様の口に入ると思うと責任を感じて尻込みしてしまう。

「だいじょーぶだよ!あとで見極め方教えてあげるからねー。さ、行こ、行こ!」

誠吾くんの後に続いて、丸太を積んだような造りになっている木製の建物へ入った。


大きな透明のガラス張りを隔てた先にいくつかの灰色のデスク。その上には書類やパソコンがたくさんあった。ここが事務所のようだ。

靴を脱いで、誠吾くんが用意してくれた来客用スリッパに履き替える。

「すいませーん!クロッカスの上矢ですけどー!」

誠吾くんがガラスの下にある半円の穴のところまで、腰を屈めて大声で呼んだ。しかし、しばらく待ってみても誰かが駆けて来るような足音もしない。


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