crocus


葉や土の匂いと立ち込めるいちごの香りが、より一層強くなって気分が悪くなってきた。若葉ちゃんの手を振り払うと、なぜか彼女が悲しい顔をした。

泣きたいのはボクの方だ。辛いのだって、苦しいのだって、怖いのも全部全部この思いの痛みは、ボクだけが感じているんだ。若葉ちゃんに分かるもんか。

その後、追いかけてきた若葉ちゃんはこれから考えようとしてるのに急かしてくるから、本当にボクは1人なんだって思った。

だったらもう若葉ちゃんにそばにいられるのは辛いだけだ。切実な結果論は、案外ふわっと呼気と一緒に溢れ出た。

「放っておいてよ!」

若葉ちゃんがどんな顔をしているかなんて見たくなかった。ううん、予想が容易に出来たからこそ、見るわけにはいかなかった。

だって……こんなのただの八つ当たりだって、若葉ちゃんが本当は心が本当に温かい子だなんてこと、あの場にいた誰よりもボクの身に沁みて知っている。

こんなボクを心配してくれての行動だっていうことくらい、十分に分かってるんだ。

今だって……ボクなんかの言葉1つで必要以上に傷ついたんだろうな……。

けど、どうしても自分の中でゴチャゴチャしたものが整理が出来てない以上、若葉ちゃんに対して素直に謝る言葉が浮んでこなかった。

帰りは、わざと助手席にいちごが入った箱を置き、若葉ちゃんには後部座席に座ってもらった。

きっと若葉ちゃんが視界に入るだけで後悔で息が詰まると思ったから。


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