crocus

守りたい人

        ***

要が話してる最中、何度かティッシュを後ろにポイポイッと投入した。

バックミラーで見る雪村さんは口をへの字にして、泣くまいと必死で堪えていた。涙を流す姿を見られたくない気持ちはよく分かる。

だから、瞬き1つで大粒の雫が溢れるという寸前、リングで戦うボクサーに白いタオルを投げるかのようにティッシュを舞わせた。

助手席に座る要がシンと静まる車内の空気をフォローするかのように仕切り直した。

「まぁ…そんなことがあったにも関わらず、何故鮫島さんが父親の会社にいたのか突き止めるために追っている。付き合わせてすまない」

「私のことはお気になさらず! むしろ…話したことで、桐谷さんに辛い気持ちを思い出させてたら……ごめんなさい」

「いや、気にする必要はない」

この話を聞くのは2回目だったけれど、当時よりもずっと細部に渡って物語っていたのは気のせいだろうか。相手が雪村さんだからなのだろうか。

…別にどうでもいいけど。

ってゆうか、そりゃ確かにさっきまで雪村さんになんて謝ろうかとか、砂時計のお礼の言い方とか物凄く考えてはいたんだけれど。

全然そんなタイミングをつかめない上に、予想外の雪村さんの登場に驚きすぎて考えていた台詞が吹っ飛んでしまった。

最後の会話があんなに酷かったというのに、問答無用で要の恩人を一緒に追う展開になるだなんて思いもしなかったのだから仕方ない……ということにしておこう。

目を瞑る恵介は1人納得し、腕組みしながら気づかれない程度に頷いた。


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