crocus
気づけば『きょうへい』さんが、扉を押さえて若葉を見ていた。
「悪いねぇ?さみぃだろうけど、もうちょい待ってね」
「いえ、そんな!私のせいで……ごめんなさい」
気にすんな、とでも言うように、グッと親指を立てておどけたウィンクをする『きょうへい』さんに、またもや笑わずにはいられない。
見上げた先に店内のオレンジ色の照明に照らされる『きょうへい』さんの髪があった。眩しいくらいに透けて綺麗な茶色に思わず魅入った。
「はい、タオルって……キミダレ?」
扉の奥から姿を現したシェフの格好をした男性は、若葉と目が合うと、さほど驚いた様子もなく首を傾げて、後ろで結う明るいキャラメル色の髪を揺らした。
何か言わねばと口を開こうとすれば、『きょうへい』さんが割って入ってシェフと思われる男性の肩を、宥めるかのように手のひらでポンポン叩いた。
「ままま!恵介!説明は後からすっからよ。先に拭かせてあげてくんね?はい、これタオルな」
「あ、ありがとうございます」
差し出されたタオルを受け取ると、扉に寄りかかる『けいすけ』さんと呼ばれた男性に軽く会釈をした。
『けいすけ』さんは若葉を上から下へじろりと観察すると、「ふーん……」とそれとないコメントをして店内へと踵を返した。