crocus


「恵介くんと近づくためのプランなんて…用意してなかった。話の流れで見つけた、料理を教わりたい気持ちは、半分は私の本心だった」

先生はついに恵介の目を見た。
向き合う覚悟が出来たのか、先生は恵介の感情全てを受け入れようとしているように見える。

「…恵介くんは一生懸命教えてくれるのに、私はいつかこの子を傷つけなくちゃいけないのかと思うと、すごく辛かった。他に方法がないのか必死で探した…けれど…。あの時は指示通りにしなきゃ…、豊さん頼りだった父さんのこの会社が簡単に潰れて…、たくさんの従業員が路頭に迷うことになる。それも避けたかったの…」

そこまで言うと先生は座り込んで、両手を床に付けた。

「奈緒子!やめないかっ!」

鮫島の怒鳴り声にも耳を貸さない先生は、深く頭を下げようとした。けれど、それを止めたのは恵介だ。

「先生。…僕は先生のおかげで、すごく素敵な女の子の存在を知ることが出来ました。先生に会ったら、文句の1つや2つ言ってやろうって思ってたのに…不思議だなぁ…、その子がいる前では僕はかっこ良く正しくありたいって思うんです」

恵介は先生の腕を引っ張り上げると、軽々と立ち上がらせた。




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