crocus
興奮をそのまま言葉にし、嬉しさをホフホフと撒き散らしながらリビングを出て、店内を駆け抜け、扉を開いて外に出た。
店の扉の上を見上げて呟いた言葉と、リリリンと鳴るドアベルの音が重なった。
「クロッカス……」
ペンキが所々剥げている趣のある錆びかけた鉄の看板に、黒く塗られた木材で形作られている──"Crocus"の文字。
たまたまオーナーさんのお店と自分の好きな花が同じだっただけ、それだけのこと。
だけど若葉にとっては、なんらかの運命というものを感じずにはいられなかった。
抱いていた不安を軽くさせ、これからの日々を期待に満ち溢れさせてくれた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方そのころ、若葉が運命的な一致に期待を膨らませている中、リビングに残る彼らの中で蛇に睨まれたカエルになっている男が1人。
「恭平……。私がどれだけ、どれだけ!店の名前を言って、若葉ちゃんを驚かせたかったか……サッカー馬鹿のゲス野郎には一生分かんないでしょうねっ!?私が朝から……我慢して我慢して焦らしてたものをっ!!ぐぬぬぬぬっ!!」
「す、すいませんでしたっ !」