crocus
何か、音が、する……。
ゆっくりと瞼を開いて見えた景色に、ぼやけた頭で考えた。
眠ってしまっていたことを理解するも、時計を見れば10分程しか経っていなかった。
そうだ。音はどこからしたのだろうと思っていれば、ドアの向こうから声が聞こえた。
「若葉?」
「……へ、あ、あ、琢磨くん?」
顔によだれはついていないだろうか、髪はぐしゃぐしゃじゃないかと手を忙しく動かしながら返事を返せば、ゆっくりゆっくり扉が開いた。
だんだんと見えたきた琢磨くんの手には、先ほどの料理が乗った皿が。
よかった。早い内に気づいてくれて。
そうほっとして表情が緩んだ若葉に琢磨くんが物凄い勢いで頭を下げた。
「若葉!さっきはごめん!あとこれ、サンキュな……」
「そ、そんな!私が悪いんです。勝手に部屋に入ってごめんなさい。あ、で、でも初めに声をかけたんです。そ、それで返事がなかったので……」
最後はごにょごにょと言い訳がましくなっている自分に自制して、もう一度ちゃんと謝ろうと正面をきちんと見つめる。
すると琢磨くんの皿を持つ手がフルフルと小刻みに震えていることに気づいた。
「……たくま、くん?」
「あ、いや、これは 何でも──」
若葉の視線に気づいたのか、琢磨くんが震えている手をもう片方の手でぎゅっと押さえつけながら、無理矢理おどけたように笑おうとするも、その表情がほんの一瞬の見えなくなった。
部屋中が真っ白な光に包まれたのだ。
その正体に気づくのに時間はかからなかった。
次の瞬間とてつもなく大きな音が、窓を叩いた。爆発音にも似た音を鳴り響かせた正体は……雷だった。
光と音の時間差、音量から察するにかなり近くで落ちたようだ。
驚きに鼓動を早くさせたまま、しばらく窓を見つめるも火事や停電には繋がらなかったようで安心し、琢磨くんに声をかけた。
「びっくりしましたねー。すごい音」
「…………」
返事がないことを不思議に思った若葉は、琢磨くんが先ほど手を震わせていたことを思い出した。
大丈夫か確かめようと、琢磨くんがいる方へ振り向けば、自分の体からサァッと血の気が引いていく感覚に恐怖さえ感じた。