crocus

またもや若葉はあることに気づいて琢磨くんの体を力強く引き離した。ジェスチャーでわたわたと説明するも、琢磨くんは首を傾げるばかり。

こうしてはいられないと、手を引いて立ち上がらせると、急いで琢磨くんの部屋に走った。

雷第二号が落ちたら大変だ、これ以上恐い思いはさせまいと思ったのだ。

琢磨くんをベッドに腰掛けさせて、音楽再生機器の電源を入れてヘッドホンをすっぽりと被せて耳を隠した。

カーテンもちゃんと閉まってあることを確認すれば、ふぅーと息を吐きながらおでこの汗を腕の洋服で軽く拭った。

その一連の様子をぽかんと見つめていた琢磨くんは突然笑い出した。

あ、笑ってくれたぁ……と心から安心し、またしても滲んできた視界。

必死で堪えていれば、ピタリと笑い声が止む。

琢磨くんを見れば、罰が悪そうに瞳をきょろきょろさせていた。

どうしたのかと心配になると、それに気づいたのか琢磨くんがちょいちょいと指を動かし、若葉が手に持つ携帯電話を、貸してとジェスチャーで示した。

携帯電話を手渡すと、カチカチとボタンを打ち込み始める琢磨くん。

その間、若葉はそっとベッドに腰掛けて琢磨くんの手元を見た。まだ少し震えているその手を無性に抱きしめたくなる。

琢磨くんは作り終わった文章を、しばし見つめてから若葉に渡した。なんとなく言いにくいことなんだろうか。

不安で高鳴る鼓動を手の震えに変えながら、一言一言を目でなぞり、大事に読んでいく。


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