アイ・ドール

 もう、元に復元する反発力も残されていないのかもしれない――彼は永遠に圧縮された。アリスによって――。





「テメェ、さっきからアリスの胸元、何チラ見してんだよっ――」


 アリスが叫ぶ。川井出を「口撃」しつつも、多田坂の卑猥な視線には感づいていた。


 私はそれすらも感じていなかったというのに――。

 多田坂を睨むアリス。


「べっ、別に見てないよ――何言ってる、悪いのはお前だろっ、なっ生意気に」


 目が泳ぎ、ぶつぶつとアリスの問いかに答える多田坂――。


「ぶつぶつ何訳のわかんない事言ってんだよっ――お前っ、何かキモイよ、キモイッ――」


「ふ、ふん」


「この部屋に連れて来る時も、わざとアリスを先に階段上がらせて、アリスのパンチラをニヤニヤして見てたんじゃねぇの――」


「な、何言ってる――俺は真面目なんだ。お前なんかより長く生きているんだ」

 彼は何を言おうとしているのか――アリスや私より遥かに年上なのに、表現が稚拙だ――。



 店内放送が先程から再三、川井出にサービスカウンターへと呼び出しているが、今の川井出に腰を浮かせる気力はない――。

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