アイ・ドール

「ありもしない事、書かれたり――アイドルだって仕事を離れれば普通の女の子と同じ悩み抱えて、落ち込んだりとかするよ――華やかな世界に見えるけどさ、妬み、嫌がらせ、誹謗中傷や謀略――――腐ってるよ、アリスのいる世界なんて――でも、アリスは負けない――」


 目線を上げ、力強く言うと表情を優しく変化させ、二人に言葉を紡ぐ。



「二人も遅くないよ。小さな幸せを心で、魂で感じようよ――そうすれば、この店だって売り上げが増えて、雰囲気も良くなるし、家族とも仲良く暮らせるし、破廉恥な妄想やパンチラ盗撮なんかも二度としなくなるよ。自分をもっと好きになって、もっと信頼しようよ――そして、愛を与えて幸せになろうっ。散々、言いたい事を二人に言ったけど、アリス、二人を愛してるよ――――アリスの言ってる意味、わかるよね――」


 深く頷く二人――。

 気が済んだのか、ソファーに座ったアリスは、ショルダーバッグから、来年にはサービスが停止される使い込まれた白い携帯電話を取り出し、足を組みながら誰かとメールのやり取りを始める――。


「後はよろしく――」


 キーを打つ音が、そう言っている――。

< 112 / 410 >

この作品をシェア

pagetop