アイ・ドール
「ふふっ――2年先まで組まれた予定に不安にでもなったかしら――」
今度こそ断わろうと、口を開きかけた瞬間に社長は笑顔すら浮かべ、先手を打った――。
「詳しく読んでゆけばわかるけれど、彼女達の活動はこのビルの施設で殆んど完結してしまうから何も心配はいらないのよ――」
社長も黙ってはいない。一歩も退く気はなさそうだ。
「どうかしら舞さん、とても効率が良いでしょう――レコーディングから編集作業、各メディアの取材対応、写真やプロモーションビデオの撮影まで、ここから一歩も出ずに完了してしまうの。素晴らしいでしょう――まぁ、外に出るとしたら彼女達のマンションとの行き来と、たまに各テレビ局に出入りする時位かしら――」
コーヒーの香りを楽しみながら、嬉しそうに社長は話す――しかし、いくらこのビルの長所を並べ立て、スケジュールを正確にトレースする仕事などと社長が説明しても、九人もの彼女達を私が一人で面倒を見る――。
やはり無理だ――何が私にとって良い話なのだろう――。
私は資料を閉じ、両膝の上に置き、意を決して社長を見据えた――。
断わろう――――。