あの子の好きな子



ぎゅっとされた手だけじゃない。広瀬くんが指を覗き込む顔が、私の顔に近すぎて。広瀬くんの家の洗剤の匂いがふわっとして。息が手にかかって。そのすべてがさらに私の心臓を速く動かした。もう指の痛みなんて忘れてしまいそうなくらいに顔が熱かった。

「おい、抜くぞ、痛がるなよ」
「あ、うん・・・」

広瀬くんはお花用に準備してあったティッシュを使って針をつまんでそっと抜いた。そんなことよりもやっぱり広瀬くんの顔が近すぎて、痛いのか痛くないのかわからなかった。

「あんまり血は出ないんだな。一応消毒した方がいいんじゃないの」
「う・・・、」
「あゆみ?」
「はい・・・」

これ以上ないのに。これ以上ない広瀬くんにドキドキしている状況で、破壊力抜群の「あゆみ」まで発動するなんて。広瀬くんのどアップを見て緊張して、手を握られてドキドキして、私の怪我に飛んできてくれた優しさに切なくなる。広瀬くん、そんなことしたら私うっかり本気になっちゃうよ。

「おい。いつも以上にぼけっとしてるけど。大丈夫かよ」
「あ、う、うん」
「痛くないんだな?」
「うん、うん・・・いたくない」

もし、もし、広瀬くんがこのまま、少女漫画のように私の怪我した指をぺろっとかしたら、私は顔から火を出せる自信がある。こんな時にしょうもない妄想をしてしまう私が一瞬情けなくなった。

「じゃあ、行くか」
「え?」
「消毒しておくんだろ。保健室」
「あ、あ、うん。ばいきん、入ると、イケナイネ」
「なんで中国人風になってんだよ。ほら立てよ」

芯を抜くために掴んでいた私の手をそのまま引いて、広瀬くんは私を起こす。心臓は一向に落ち着かない。


< 11 / 197 >

この作品をシェア

pagetop