あの子の好きな子



教室につくと、必ず誰かが私の顔を見たあとに会長の姿を探して楽しそうに交互に見る。もう毎度のことなのですっかり慣れてしまって、私は自分の席まで一直線に歩いていくとそこでずっと頬杖をついていた。友達がその話題を出しても、ああうんとしか言わなかった。噂なんて日がたつにつれ落ち着いていくものだけど、球技大会という日がだんだんと近付いて来る今の状況では、時間の経過は噂を盛り上げるだけだった。

うちのクラス、優勝できると思う?
どんな告白をするんだろうか?
返事はOKだろうか?

言いたい放題言われているのを聞き流しながら、人間ってものは本当に噂好きなんだなと思った。

「ねえ、遥香ってば。どうするの実際、告られたら」
「んー。だから、そんなことしないんだってば」
「もしも、だってば。会長は遥香のこと好きだよ絶対」
「・・・・・・」

ああ。私は頬杖をつき過ぎて、そのうち手のひらがほっぺたにくっついてしまいそう。私の周りは寄ってたかって、まるでお見合い仲介のように会長のことを推してくる。会長いいじゃん、付き合いなよ、面白がってそればかり言う。もしも本当に、そんな公の場で会長の大告白を受けてしまったら、私はその日から完全に悪者だ。みんなのおすすめする会長、みんなの会長を、こともあろうに大々的に振ってしまったら。なんだかまた肩身の狭い日々が始まる気がする。

でも仕方ない。実際、私は悪者なんだ。会長の気持ちに気付かない振りをして、蓋をして、遠ざけていた。その気はないのに、期待させたまま放っておいた私がきっと悪いんだから。自意識過剰かもだなんて、もう目を逸らせない。私はきっと会長を傷付ける。その予感が一番苦しかった。


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