あの子の好きな子




よりによって怒鳴りつけた。先生を。あり得ない。終わった。

「優勝どころか、最下位争いになってるね」
「・・・・・・」
「遥香ってば」
「あ、うん」

バスケチームの男子がゼッケンを脱いで戻って来た。会長はどうしているかな。ここ最近、本当に会長と話せていない。このまま話さなくなって、会長が私のことを忘れたら、それはそれでいいと思うずるい自分がいた。きっと先生にとって私も、そういう存在なんだろう。ただなんとなく、時が流れて、次第に自分のことを忘れていってくれれば・・・自分は助かる。気持ちが楽になる。皮肉にも、会長のことがあって今はっきりと先生の気持ちがわかった。好きになれない人からの好きという気持ちが肩を重くさせること。先生にとっての私の気持ちはそれなんだ。

「ねえ、遥香」
「うん」
「言っちゃいけないことかもしれないけどさ・・・」

ずっと隣であれやこれやとお喋りしていた友達が、急に声のトーンを落とした。最後の競技、ドッヂボールの応援中。最下位をかけたその戦いはいまいち盛り上がりに欠けていて、完全にお遊び感覚のお気楽なムードが漂っていた。ふざけた応援の声が響き渡る中で、その友達の声だけが真剣な色を帯びていた。

「何・・・」
「沙紀、休んでるでしょ、今日」
「うん」
「見たくなかったんだよ。あんた達のこと。噂ってわかってても」
「え?何・・・」
「あの子、会長のこと好きだったから」

その時、敵チームの一人がアウトになって歓声が起きた。一日中ぼんやりしていた私は、急に頭の中が冴え渡ったような感じがして、その歓声が妙に大音量に聞こえた。

「遥香見てると、どうしたいのかわからないから・・・沙紀はよけい辛いかもしれないって、私は、思う」

会長のことが、好きな女の子。当然いるだろう。誰かが誰かと結ばれるときは、大抵誰かが泣くことになるのだと誰かが歌っていた。それが魅力的な人だったら、なおさら。
クラスメイトには会長をやたらとおすすめされていたけど、そういえばこの友達は一度もそれをしなかった。その理由がわかった気がした。




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