あの子の好きな子



「遥香は、惚れられるのなんか慣れっこかもしれないけどさ・・・沙紀みたいな子もいるし、なんていうか、ちゃんと考えた方がいいかもって・・・私は思う」

私は何も言えなくて、自分の膝を力を込めて抱えた。友達はそれだけ言ったらいつもの調子に戻って、メガホンで「あてろあてろ」と声援を送った。思いやりのある彼女の発言は、私のためでもあるんだろう。それがわかっていても、その言葉が辛かった。絶対に実らない自分の恋のために、私は何人の人を傷付けているんだろう。小さな恋をするために、いったいどれだけ大きな犠牲を払えばいいの。爪を立てて膝を抱えていたそのとき、強く思った。

どうして、世界は一対一に作られなかったんだろう。誰かには誰か、運命の人がいて、自然とお互いのことを好きになる。それでよかったじゃないか。どうしてこんなに、一方通行の想いばかり、世の中には溢れてしまうんだろう?
会長に想いを寄せる子も、会長の気持ちも、私の終わらない片想いも。もしかしたら、知らないだけで、ずっと私のことを見てくれている人だっているかもしれない。すべての気持ちが、悲しく宙を浮いている。誰もが幸せになりたくて、好きな人に振り向いてもらいたいだけなのに。

あの子の好きな子が、自分だったらって。そう思うだけなのに。



「話があるんだ」

ちょうど家に帰る途中で、会長から電話がかかってきた。会長は、私の家の近くの公園まで来てくれた。私も会長と話がしたかったから、私は落ち着いた気持ちのまま公園に向かっていた。胸はずきずきと痛んでいたけど、私にはしなくてはいけないことがあった。

もう、自分を決めなくちゃいけない。


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