あの子の好きな子




「わかってたと、思うけど。ずっとはっきりしなくて、ごめん」

会長の声が微妙に震えている。精いっぱい勇気を振り絞った名残なのかもしれないと思った。私も、めいいっぱいの誠意を込めて、会長に応えなくちゃいけない。声を出そうとしたら泣きそうになったので、一度咳払いをして、笑顔を見せた。

「ありがとう」

心の底からそう言えた。私は昔から人の反感を買うことが多かったし、ここ数週間も自己嫌悪に溺れていた。だからこんな自分を好きになってくれたこと、好きだと言ってくれたことが純粋に嬉しかった。会長の、一度しかない尊い大事な時間。その時間をかけて、私のことを想ってくれてありがとうと、私は心底思った。

「会長は・・・クラスの、男の子の中でも、一番仲良いし、一番・・・話しやすい」

一言一言、呼吸をおきながらゆっくりと話した。頭の中でいろいろな言葉がぐるぐると回っている。その中から、ひとつひとつ、言葉をつかまえて、声にしていった。

「だから・・・・・・」

会長のことはすごく好き。だけど胸が苦しくなるような、あの気持ちとは違う。

「クラスメイトとして、仲良くして欲しい・・・」

唇をぎゅっと噛んだ。空気が乾燥し始めたこの季節、もともと荒れていた唇は、血が出てしまうかもしれないと思った。目を瞑っても、唇を噛んでも、胸の痛みだけはどうしようもなかった。

「うん、わかった」

会長は、すぐに一言そう答えた。


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