あの子の好きな子



「言えても、一緒に帰ろうとか遊びに行こうとか中途半端になっちゃって。変な雰囲気にするくせに結局大事なことは言えなくて・・・困っただろ、実際」
「そんなこと、ないよ」
「ずるずる引き延ばして、結局、噂どおり今日言うことになっちゃったんだけど・・・いい加減、はっきりするから。ごめんな」

会長は繰り返しごめんと言った。私は会長の力ないごめんを聞くたびに胸が痛くて、それに耐えるように目を閉じた。会長はもっと胸が痛いんだ、会長のこと好きな子はもっと胸が痛いんだ、そんなことを考えていた。

「久保」
「はい」

私は改まった返事をした。会長も私も、お互い目を合わせてはいなくて、ベンチに隣どおしに座りながら、ただ地面を見つめていた。目を合わせなくても、会長のためらいや緊張が伝わってきて、私の心臓は速く動いたままだった。少しの間を置いて、会長は言った。

「好きだよ」

風が一層強く吹いて、枯葉がからからと音をたてて走り去った。私が胸がぎゅっとなるのに耐えきれなくて、ココアの缶を力いっぱい握りしめていた。ただ純粋に、気持ちを伝えるために、その言葉を聞いたのは久しぶりだった。会長の控えめで優しい告白を全身に受けて、私は初めて、先生に出会わなければよかったと思った。

会長のこと、絶対に友達以上には見られないと思ったわけじゃない。もっとずっと、どうしても欲しい好きな人がいるから。だからもし、先生がいなかったら、もっと私に余裕があれば、ゆっくり時間をかけて会長と向き合えれば。私はこの優しい人と、幸せな恋人同士になれたのかもしれない。


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