あの子の好きな子



雄也は私の顔を拭くのをやめると、私の目をまっすぐ見ていた。私も次の涙をこらえながら雄也の目をじっと見て、それからうつむいた。

「・・・ごめんなさいなんて・・・」

会長がくれたココアの缶を握りしめる。もう、握りしめすぎて、缶がやわらかく感じた。

「ごめんなさいなんて・・・言うよりも、言われる方が100倍楽だよ・・・」

肩が震える。私はコンクリートの地面を睨みつけながら、また唇を噛んでいた。会長の声が頭の中に響いては消えて、枯葉のからからとした音がずっと頭から離れなかった。雄也は、しばらくの間私の前に立ったままだった。うつむいていた私には雄也の足しか見えていなくて、どんな顔をしていたかわからなかった。

「なら、あと100回ごめんなさいって言われてこいよ」

少しして雄也がそう言ったから、私は顔を上げて雄也を見た。雄也は無表情で、じっと私の目を見てた。私が何も言えないでいると、雄也はじゃあと言って、ゆっくりと家に帰って行った。私はココアの缶を持って立ち尽くしたまま、考えた。もっともっと、自分の好きな人にぶつかってこいってこと?100倍楽なら、100回くらいふられてこいよって、ことかな。
もう泣き止むまで隣に座ってくれなくなった雄也を見て、変に大人になってしまった気分だった。でも、もう実際、誰かに泣きつくなんていう年齢じゃないんだ。疲れて倒れそうになってもつっかえ棒はない。自分で、鏡をしっかり見て、歩かなくちゃ・・・

私が好きなのは誰?

瞳からすべて流して、ある意味すっきりした。まっさらになって、もう一度ぶつかろう。プラスもマイナスもない、ゼロになって、また先生を好きになったところから始めよう。どうせ、黙ってたって3年間でさようなら。しつこい女で結構だ。

また、ぶつかろう。


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