あの子の好きな子



「先生の住所教えてください」

不安を振り払うみたいに、いつもより勢いよく準備室の扉を開けた。また避けられるかもしれない、留守にされるかもしれないと思ったけど、先生はそこにいた。開口一番私が言った言葉に、先生はぽかんとしていた。

「そんなに、目まん丸にしないでよ。もう、家に行こうとしたりしませんから」
「・・・あ、ああ」
「年賀状、書きたいの。お願い!だめですか?」

手を合わせてお願いする私を前に、先生はしばらく考えて、わかったと言った。先生は、私を見てどう思っただろうか。教室以外の場所で先生に会うのは、泣きながら怒鳴ってしまったあの日以来。すっからかんになって、やけに明るくなった私を見た先生はどんなことを考えたのだろう。

「今時の子も、年賀状書くんだなあ」
「ううん、あんまり書く子いないですよ。私も先生にしか書かないかも」
「・・・でも、担任の先生とか・・・顧問の先生とかいるだろ?」
「うーん。別に、先生だから出すわけじゃないから・・・」

先生は住所を書く手をとめて、何か考え事をしているように見えた。その様子をじっと見ていたらぱちっと先生と目が合って、先生はその目を逸らすと住所を書きなおした。明らかに戸惑った表情のまま、はいこれと住所を書いたメモを私にくれた。

「ありがとうございます!お年玉付きの、当たりそうなやつ送りますから」
「そんなのわかるの」
「当たったら教えてくださいね」

その日はそれだけ言うと、急いで準備室を出た。明日からちゃんと、理科総合の教科書とノートを毎日持ってこよう。それでたくさん質問をこさえて来てやろう。もう、勉強熱心のふりをするわけじゃない。先生が好きだからと二度目の告白をしてしまった以上仕方がない、その想いをひっさげたまま、先生との時間も守りたい。

もうくじけるのはやめた。
どうしても好きなんだから。

私の心にめらめらと燃える炎が灯った。冬が始まる。



< 151 / 197 >

この作品をシェア

pagetop