あの子の好きな子



「ごめん。私、もう、野球部には行けない」
「・・・え?」

私が言おうと決めていたセリフ。その日、そのセリフを言ったのは、私じゃなくて美咲だった。

「ど・・・どういうこと?」
「ふられちゃった」
「えっ?」
「私、池ちゃんに、告白したの、先週。でもふられて・・・気まずくって行けないよ、とても」
「・・・ちょ、ちょっと待ってよ・・・」

そんな。そんな事ってある。
恋に敗れてしまった美咲の今の心情は察するけど、そんなまさかこんなタイミングで、そんな事ってある?
私は足元が一瞬ぐらっとするのを感じたけど、すぐに思いなおした。美咲もやめるんなら、便乗して私もやめやすくなるかもしれない。

「わかった・・・けど、とりあえず今日だけ、行こうよ。それで、悪いけどやめますって言お、私もそうするから。何も言わずに行かなくなるのは良くないよ」
「・・・私・・・、もう一度も顔出せない」
「そんなこと言わないで。今日だけ、今日で最後だから」
「・・・ごめん、行けない・・・・・・」

美咲は小さく肩を震わせて、泣き出してしまった。ふられたショックがまだまだ癒えていないんだ。私は慌てて美咲の肩を支えて、謝った。一生懸命美咲を慰めながら、一人で言いにくいことを言いに行かなければならない今日の部活のことを考えると憂鬱になった。


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