あの子の好きな子



「いやあ、久保さん達が来てくれてから、本当に助かってるよ。久保さんがいなかったら、今ごろ軟野は破綻してたかもなあ、ははは」

私の葛藤とは裏腹に、監督にそんなことを言われた。こんなことなら、グラウンドにつくなり、顔を合わせるなりすぐにやめたい旨を伝えればよかった。今日の活動が終わったら言おうと思っていたのに、球拾いの最中、なんとなしに隣にやってきた監督にそう言われて動けなくなった。

「今日は高橋さんの方は、お休み?」
「あっ・・・あの、美咲は・・・色々ありまして、もうこっちには顔を出せないそうで・・・」
「え、そうなの。そうなんだ、残念だな・・・まあ兼部をお願いしてるわけだし・・・久保さんだけでもいてくれれば助かるよ、こっちは」
「・・・あ・・・あの・・・」
「久保さんも大変だろうけど、頼りにしてるから、本当に。ははは」
「・・・・・・はあ・・・どうも・・・」

どうすりゃいいのよ。

私はこの頃、恋の終わりというのはガチャガチャとした慌ただしさの中で訪れるのかもしれないと思った。枯葉がそっと落ちるように、夏が終わっていくように、そっと終わりと告げるものでもなく、美咲のようにはっきりと幕を閉じてしまうものでもなく。忙しくなる日常の中で、早すぎる時の流れに流されながら、ただ溺れるように、いつの間に終わっていくものなのかもしれない。毎日を忙しく過ごしていくうちに、上に色々な荷物を乗せられて、恋がどこかにいってしまう。そんな風に先生を失ってしまうのではないかという予感が私を焦らせていた。

春はまだ遠い。


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