あの子の好きな子
今日は部活がない日だから、準備室には行ける。うわの空のまま、まったく意味のない授業を終えて、こんなことならいっそのこと休んで先生のところに行ってしまえばよかったと後悔した。このまま家に帰ったら、今夜中に私は不安に押しつぶされてどうにかなってしまう。終業のチャイムが鳴ると同時に、私は準備室めがけて走り出していた。
本人に聞くのが怖くないわけじゃない。だけど絶対に間違いのないその答えを、早く先生の口から聞きたかった。
やっぱり来るのが早すぎたようで、準備室は閉まっていた。きっと今はまだ教室にいるんだろうけど、C組の教室に押しかけて行ったところで話しかけずらい。結局私はこの場所でしか、先生に近付けない。準備室の扉の前に座り込んで先生を待った。寒くもないのに指が震える。早く来て、お願い。
ぱたん、ぱたん、ぱたん。
どれくらい経ったあとだろうか。階段を上る足音が聞こえた。先生だと思って顔を上げると、制服を着た生徒の影が見えた。背が高い、と思ったら、影の主は雄也だった。
「・・・お前、何してんの?」
「・・・・・・雄也・・・」
私はよろよろと立ち上がった。この何十分か、めいっぱい緊張していた私はすでに疲れ果てていて、地縛霊のようにそこにいたと思う。
「お前、いつもそんな風に待ってんの?不気味だぞ、いくらなんでも」
「・・・・・・違くて・・・」
首を振りながら、すがるように雄也のシャツをぎゅっと掴んだ。明らかにおかしい私の様子を見て、雄也は私の顔を覗き込むようにした。
「雄也・・・どうしよう、雄也・・・」
「どうしたんだよ」
「先生が・・・・・・」
雄也の手が私に触れそうになったとき、また別の足音が聞こえることに気が付いた。音の方を見ると、今度は正真正銘、篠田先生がいた。