あの子の好きな子
「あれ、どうしたんだ二人とも、こんなところで」
先生は目を丸くして、私達を交互に見た。何も言えないでいる私を見てか、少しして雄也が口を開いた。
「こいつが先生のこと待ってた、らしい。俺は、もう帰るとこだから・・・失礼します」
「え?ああ。さようなら、気を付けて」
雄也が私の手をとって自分から離すと、すたすたと行ってしまった。私は先生と目が合ったあとすぐに逸らしてしまって、先生がわけもわからず困っているのがわかった。とりあえず入ればと言われて準備室に入ったけど、いつもの椅子には座らなかった。先生を見るのが怖い。怖いけど、このままだと私がどうにかなってしまう。
「様子が・・・おかしいけど、どうかした?」
「・・・先生・・・」
意を決して先生の目を見たら、やっぱり私の好きな先生がそこにいて、私はどうしても先生が欲しかったから、噂のことを考えると脳みそがぎゅっとされるみたいに苦しくなった。誰かのもとへ行っちゃやだよ、先生。それが先生の幸せでも、それを認めるほど大人にはなれない―――
「先生・・・、先生」
「・・・どうした?言ってみな」
「先生・・・・・・、婚約するの?」
今までのどの瞬間よりも。クラス替えの時よりも、来るかわからない先生を待っていた時よりも、私は強く願っていた。お願いだから早く、ノーと言って。
押しつぶされそうな不安の中で、ただ強くそれだけ願った。