あの子の好きな子


その日、ふわふわした足取りで家に帰ると、ちょうど玄関先で雄也と鉢合わせした。雄也は私服だから、どこかに出かけていた帰りだと思う。なんでこういつも肝心な時に雄也とはばったり会ってしまうんだろう。色々とタイミングが良すぎる。

「あ・・・」
「遅かったんだな」

準備室の前で雄也に会って、雄也がいなくなってから、私は夢のような現実の中にいた。今また雄也に会って、これはちゃんと昨日から続いてる現実なんだと急に実感した。

「センセーは、ものにできたのかよ」

雄也はからかうように意地悪く言ったけど、私は何も言い返すことが出来なくて、ただ耳が熱いから、きっと赤くなっているだろうと思った。先生の腕とか胸とかキスとか、色んなものが思い出されて恥ずかしい。ああ、こんな挑発をさらりとかわせないで、私この先大丈夫かな・・・。

「なんだ、凄いな、お前」
「あの、う・・・、へへ」
「浮かれてんな」

だらしなく笑った私を見て雄也は顔をしかめた。だけど次に見たら、お父さんみたいな優しい顔になっていた。男の人って、みんなこんなに優しい顔ができるんだろうか。

「よかったな」
「うん。ありがとう、雄也。結構、雄也のおかげっていう部分、大きい・・・」
「それより浮かれてないで気をつけろよ、くれぐれも」
「うん。絶対、気をつける」

雄也はそれだけ言うと、じゃあなと言ってさっさと家に入っていった。本当に、私は浮かれていないで気をつけなくちゃいけない。強引に言い寄ったのは私の方で、迷惑がかかるのは先生の方だから。



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