あの子の好きな子


もう一度だけ、聞いてみようかなと考えていた時、部室のドアが開いた。

「何?何盛り上がってんの?」

辻くんだった。加奈ちゃんと同じ学年の、男の子。今年の春、加奈ちゃんと一緒に部室にやって来た子だ。

「ガールズトークだよ、健人は入れないよ」
「なにそれ、大丈夫。ねえあゆみ先輩、何の話?」
「加奈ちゃんの好きな人の話。辻くん知らない?」
「あゆみ先輩!」

加奈ちゃんが立ち上がって私の口を封じた。そういうところも可愛くて和むなあ。でも一緒に部活動に入ってきたぐらいだし、いつも仲良しだし、加奈ちゃんが辻くんを好きでもおかしくないというか、かなりありえる線ではある。先輩としてはかわいい後輩2人がそういう風になるのはとても微笑ましい。

「先輩、この話はなしです!部活動しましょう、部活動!」
「俺、興味ある。あゆみ先輩は?あゆみ先輩のそういう話ないの?」

辻くんはやんちゃっぽいところがあって、私含め3年生の先輩たちにも敬語を使わない。でも嫌な感じはしないし、基本的に人懐っこくて調子がいい。この明るさは広瀬くんにはないよなあ・・・。

「辻くんにする話はない」
「なんで!なにそれ。加奈には言ったんでしょ?」
「だって女の子だもん」
「うわ出た。そういうの。いっつも俺を仲間外れにする」

辻くんが一人でいじけている。
3年生は受験シーズン真っ盛りで出席していない。仕切る人がいないので、仕方なく今日は撮影会ということにして各自好きなところにばらけた。私はなんとなく自転車置き場に足が向かう。運がよければ、広瀬くんに会えるかもしれない。






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